月刊パラレログラム

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備忘録を兼ねて、映画の感想など。

ディープ・ブルーのコック(とブルース・ウィリス)のこと

※「ディープ・ブルー」(1999)のネタバレが多分にあります。

ディープ・ブルーは、私にとっては「お気に入りムービー!」等と高らかに言うにはちょっと許容値オーバーの怖さの映画なんですが(ちなみにWikipediaには「SFアクションホラー映画」って書いてあるのだった。要素が多い)、1人あたま3秒くらいでイチコロの捕食シーンの潔さ及び被害者たちの苦しみシーンのなさ(一部例外あり)と、あのコックの生き様は、私の心を捉えて放さないところがあります。驚くほど名前は呼ばれないがプリーチャーさん。演者:LL・クール・J

映画序盤、浸水した廊下を「どうしたんだろ?」くらいのゆるふわ危機感で歩き、ペットの鳥とはぐれ、誰もいない廊下に向かって「バード?」と呼びかける(鳥のこと鳥って呼んでるの?)シーン、正直あ、死んだなって思いました。見えた。完全に見えた。生き物の気配→「おいおいバード、そこにいたのか…」→サメザバー!→死ぬ陽気な黒人!!!
しかし死なない!コック、背後からのサメの気配を機敏に察知!とはいえ、その後逃げ込んだ調理室で彼が絶対役に立たない浅い鍋みたいなのを胸に抱えた瞬間、あ、死んだなって思いました(2回目)。こういう場面で絶対役に立たない物を手に取る奴は死ぬんです。ヒーローはちゃんとバーナーとか麻酔銃とか持つからこういうときに。
しかし死なない!!!すごい!!!ここらへんで「この人生き残るのかな?」って希望を持ち始めるんですけど、あろう事か彼はその後成り行きで(?)オーブンの中に逃げます。ちょっと前のシーンで死んだ別の男性職員も本当に悪趣味で残酷な死に方をしているので、この作品のそういう意地の悪さはもう知っている。なにしろこれはホラー映画なのだし。コックがサメ映画なのにサメじゃなくてオーブンで焼かれて死ぬなんてすごくブラックユーモア。ありそう~。しかしここでコックが言うのです「コックがオーブンで死んでたまるもんか!!!」
絶望的な状況を諦めないその勇気と減らず口と行動力。しびれる。

私がこの映画でいちばん好きなシーンが、終盤、プリーチャーさんがついに別れた妻と子供に遺言ビデオレターを残すという究極の死亡フラグを立てるところなんですが、「俺がお前達に何を残してやれるだろう……」と考え込んだ結果が、「海で働くな」とか「サメには気をつけろ」とか「お父さんはみんなをずっと愛していたよ」とかじゃなくて、にこっと笑って「オムレツには卵ふたつだ。牛乳を入れるのは間違いだ」。
極限状態でもユーモアを忘れない人。物凄く感動してしまった。そんじょそこらの愛しているより、何倍もいい遺言ではないか。

突然ですが私はブルース・ウィリスがめちゃくちゃ好きで、どこが好きだと言われたらあの何かへらっとした表情とか笑っている目が好きなんですけど、つまるところそれは彼がよくやる役の雰囲気、代表作ダイハードの1作目で言うならば、正義漢の警察官が圧倒的不利な孤立無援の状況でビルの中を走り回り、畜生畜生このやろうもうクリスマスなんてこりごりだー!と言いながら、それでも最後までユーモアを手放さないところが好きなんです。
追い込まれれば追い込まれるほど、いちばん最後の武器のように減らず口とユーモアを握りしめ直す人、好きなんですよね、ほら、トニー・スタークとかね…わかりますか…そういうやつ…