月刊パラレログラム

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備忘録を兼ねて、映画の感想など。

シドニーでBEAUTY AND THE BEAST THE MUSICALを観た日記

オーストラリアのシドニーへ出張に行き、最終宿泊日前日の夜にホテルでゴロゴロしながらYoutubeを見ていたときのことです。どうやら滞在国に合わせた広告が流れるらしく、見事に英語だわ…と思いながら終わるのをおとなしく待っていたら、突然流れ出す華やかな映像、楽しい曲、「BEAUTY AND THE BEAST THE MUSICAL now playing in Sydney」の文字。…シドニーシドニー!?
私が数か月前に劇団四季版を観てドはまりし、実写やアニメや続編を総ざらいして12000字の感想を書き、劇中歌ビーアワゲストの多種多様なバージョン違いしか入っていないクレイジーなプレイリストを作ったりしている、あの『美女と野獣』のミュージカルを、今、シドニーで、やっている!!?
待って待って一旦落ち着くべき。シドニーって言ったって広いんだから。私バス乗れないし(※シドニーでバスに乗るためには専用カードかタッチ決済式のクレジットカードが必要です)。それに上演時間も合わなかったりするのでは?

 上演開始時間:18:30~
 劇場:キャピトルシアター(ホテルから大通り沿いに徒歩20分)

…行ける。明日の仕事は16時には終わる予定だから全然行ける。あっチケットは?明日は日曜日だからもうないんじゃ?えっ全然ある。えー。えー!?行けちゃう!?でももしかしたら仕事上の付き合いの人との会食が急遽設定されたりするかもしれないし、それがなくてもそもそも夕飯は基本的に同じく出張に来ている他部署の人たちと一緒に行きましょうね~ってことになっている。日ごろ付き合いのない他部署の人に『美女と野獣』観たいので今日はサヨナラ!って言えるか!?

翌朝目覚めた時点では「ちょっと無理だろうな」と思ってたのに、気付いたら朝食会場で会うなりそっと切り出してたし「えっ仕事の後でしょ?最終日だし全然いいよ」と快諾でした。えーーー!?ヤッターーーー!!!


というわけでここまでの嘘みたいにできすぎた展開からこのままとんとん拍子でいけるかしらんと甘く考えていたらまあ全然そんなことはなく、16時に終わるはずだったその日の仕事は景気よく延び延びに延び、なんとか飛び出して劇場付近に駆け付けた時点で時刻は18時10分=開演20分前でした。どこだ!?ここか!?とキャピトルシアターの看板を探して夕暮れの路地に目を凝らしたら、そこには光り輝く大きな写真が。

 

ビーアワゲストだ~!!!(大興奮)

正面に回ると、そこには電飾に囲まれた華やかな写真や宣伝文句がずらずら。じっくり見たいけれどそれどころではない、何しろ最悪の事態も考えられたのでまだチケットも買っていません。正面玄関にはどうも売り場とかなさそうだけどチケットはどこで買うの!?あっ別の入口にBOX OFFICEって書いてある!数年前に英会話でやった!
職場の研修の一環だったのにうっかり日常(含観光)コースにしちゃったせいで「ブロードウェイで劇のチケットを取ってみましょう」という絶対仕事で使わない単元があって何だかなあって思ってたのにこんなところで役に立つなんて。ありがとうベル〇ッツ。

念のため守衛の女性に「チケットってここで買えますか」と聞いてみると、「もちろん!」と明るく返してくれました。「今日のチケット?それならそこのカウンターへどうぞ」ありがとう!
さっそくカウンターのお兄さんにチケットくださいと元気に頼みます。「今日のチケットですか?」「そう!」「席種によって90ドルから130ドルまであります」「一番高いやつください!!」「The best???」「Yes!!!!」
↑ここまで来たら後悔したくなさ過ぎたのと、全ての席の説明を聞いて理解したり選んだりする心と時間の余裕が一切なかった。ちなみに私が朝サイトを見た時には160ドルとかの席もあったので、この時点で残っていた一番高い席が130ドルだったんだと思います(出発時、羽田空港でのレートは1豪ドル100円前後)。同額の席も複数あったはずですが、私の切羽詰まり具合を見て察したのかthe bestの意図を正しく受け止めてくれたのか、お兄さんの考える最高の席を選んでくれたらしく、それ以上のことは聞かれませんでした。
ちなみに、発行作業が始まったのを見てどうやら買えそうだぞ!とうきうき現金数えてたら「カード決済しか駄目です」って言われました。バスと言い、本当にキャッシュを使わない国だなオーストラリア…。

という訳で無事チケットを買えました。夢見心地。ひどく現実感がない。なぜこんなところにいるんだろう、昨日は窓のない部屋で(※円安と宿泊費高騰のため)ゴロゴロYoutube見てたのに。ふらふらとチケットカウンターを離れると、オフィスの真ん中に据えられているひとりしか入れないかわいいちっこいカウンターの中におじさんが立っていて、手に持ったパンフレットを値段も言わずに売っています。夢見心地なので買う。…2冊組で30ドル。高くない!?いやいいです!夢見心地だから!!
なお当然このおじさんもカード決済です。彼の手元にあったのがタッチ決済用の端末だったので半泣きで「タッチ決済式のカード持ってません」って訴えたらICチップ式用の差込口もありました。よかった。シドニーに行くならほんとタッチ決済式のカード持ってったほうがいいです。

とりあえずBOX OFFICE内のお手洗いに行ったら、出てきた女性が私の後ろに向かってSo cute!と微笑んだので振り返るととっても小さいベルが黄色いドレスを着ていました。かわいい~。もちろん普段着の人もいるんですが、とっておきのおしゃれをしている人がいっぱいいるんです。なんて素敵なんだろう。私もワンピースくらい着て来たかったんですが、仕事から直行したのでごく普通のオフィスカジュアル+ビジネスバッグでした…まあジャケット着てただけよかった…。
階段のところに飾られていたでっかい写真もビーアワゲスト(外と同じ写真)でテンションが爆上がりしました。ビーアワゲストが目玉扱いされていると嬉しくなってしまう。

お手洗いが済んだらBOX OFFICEを出て正面玄関へ。いや別に中でつながってるんですけど、正面から入りたくて…。
一旦落ち着いて外のポスターを眺めます。ガストン決まってるな…。ガストンが決まってる美女と野獣は絶対に大成功だよ…。

満を持して入場します。
夢みたいだった。内装が。バラがちりばめられていてあまりにも世界観に合っていたので美女と野獣用にこうしたのか?と思ったけどどうやら元からっぽい。カジュアルに食べ物や飲み物を売っているのが、飲食禁止の演奏ホールに慣れている身としては新鮮。
参考:Expediaにいい写真がありました。客席写真もこちら。

客席入口では係員の人が一組ずつチケットを確認しながら、こんにちは、写真や録画は駄目ですよ、あなたの席はここをまっすぐ進んで左側です、というようなことを教えてくれます。中に入ったら肝心の列を示すアルファベットがどこにも見つからず(あとで通路側の座席の側面に書いてあるとわかった)、とはいえオロオロする隙もなく案内係の方がにこやかに誘導してくれました。ホスピタリティ~。1階席のG列だったので前から7列目ですね。さすが(開演20分前時点での)ベストシート。
入口で言い渡されたノーフォトグラフィーの範囲がよくわからなくて客席で写真を撮らなかったんですが、さっきサイトを見たら上演中でなければOKだったっぽい。こちらも引き続き内装がすごかった。天井のあたりに天使がたくさんいたりして。
何しろベストシート一点張りだったので1階席と2階席の指定もしなかったんですが、結果的に1階席の前方でよかったなあと思います。2階席がかなり張り出しているので、1階席後方は天井が多少邪魔になるのではないかな。でも2階席裏側=1階席後方の天井の装飾も凄く美しかったです。

隣にはあとからお父さんと少年ふたりがやってきました。小さな人用のクッションを2段重ねて席に座ったボーイ、赤いスニーカーがたまに私の膝を蹴ってましたが私もがっつり浮かれてるし場に飲まれてるので全然気にならない。むしろ彼が何も気にせずに少しでも作品を楽しんでほしいと願うばかり。右斜め前の男性はパートナーの肩に自然に腕を回している。スナック売りの人が通路を通る。皆で席を埋め尽くして、今か今かと開演を待ち構えている。
まずはまだ客席が明るいうちに、先住民の人々への謝辞と敬意を表するスピーチ(Acknowledgement of Country)が流れます。これは前日の仕事上のイベントでも述べられていたもので、オーストラリアでは近年広く浸透した儀礼なんだそうです。過去に向き合い、誠実であろうとする姿勢をこういうふうに自然に示される文化、とてもいいですね。
客席が暗くなる。舞台手前の低い所から、スコア用のライトの照り返しを浴びて、ぼんやりと指揮者の姿が見えている。つまりオーケストラピットがある!生演奏だ!すごい!ああ、始まってしまう。


当然全編英語ですが、同じシナリオに基づいている四季版を見たばかりなので話の筋はよくわかります。物語冒頭部、「ガストンが撃ち落とした鳥をル・フウがキャッチできず、バタッと地面に落とす」というシーンでみんながどっと笑って、ああ!これが!これが噂に聞いた海外の観劇!と感動してしまった。面白い所では忌憚なく笑い、可哀想なところではため息をつく、その素直なリアクション。

いちいちよかったことを書くときりがないので、大好きなビーアワゲストが始まるところの話だけします。コグスワースから、ベルに夕食を出していいけど、静かにしろ、とくぎを刺されたルミエールの返事。
"Of course, of course. But what is dinner without a little... music?"(もちろんそうするよ、だけど、ちょっとした音楽のない晩さん会なんて――ねえ?)
"MUSIC!?"(音楽!?)
オーケストラがド―――ン!!!
マスクのジム・キャリーみたいな全開笑顔決めポーズのルミエールの背後にラメッラメのピンク色の幕バッサ―――――!!!
観客爆笑!!!
邪魔者をピンクの幕の裏に追い出したルミエールがベルに向かって滔々と語りかけます。あなたをお招きしたことは我々にとって最高の栄誉です、どうかリラックスしてください、as the dining room proudly presents...
"Your dinner."
言葉と同時にぱっと変わる照明。
マスクのジム・キャリーみたいな全開笑顔決めポーズのルミエール(2回目)に観客爆笑(2回目)。
もう、泣いちゃうかと思ったな。明るくて豪華でやさしくて楽しくて。

セットも衣装も、とっても色鮮やかで豪華でかわいらしかったです。コグスワースなんか服(時計部分)メタリックグリーンで髪の毛紫でしたからね!ルミエールも全身まっきんきんですごく燭台でした。バベットもポット夫人もピンク基調で超かわいい。野獣は赤い革ジャケ着ててちょっと仮面ライダー俳優みたいだった。そんな中ベルとガストンだけは「まさにあの」という服装を守っていて、それはそれでとってもよかったです。
現在の日本での上演劇場であるアンフィシアターは舞台が円形に張り出しているので、それに比べると奥行きが少なく、また天井の高さのせいかセットの高度も低く、ダイナミックさには少し欠けるように思いました。背景が書割ではなく映像が駆使されていて、「遠くに見える城」とか「壁一面の本」とかが自在に現れるのは画期的。
明らかに、全然演出が違う、と思ったのは強いぞガストンとビーアワゲストで、そもそも曲の尺も違いました。こちらの方が新演出なのかもしれません。どっちの曲も超よかったです。ガストンの編み物コーナーとか。(あるんですよそういうのが)
ガストンがあまりにもばちばちに仕上がっていて出てくるなり恰好よすぎて笑ってしまった。ガストン、歌がうまくて顔がガストンっぽくて体が仕上がってないとできない物凄い役ですよね…オーストラリアでガストンやってたと言えばヒュー・ジャックマンっていうのがハードルの高さをまざまざと表している…。今回のガストンも、職責を完璧に果たしていました…。
ビーアワゲストの方は、後半にタップダンスパートが入ってたんですよ!!アニメのメイキングで「(曲のクライマックスで)足がないのにキックさせるのが大変だった」と言われていたルミエールが、ついにタップダンスを…燭台なのに…。


休憩時間になるなり真後ろの女性が同伴者に"My favorite character is Lumiere!!"と熱く語っていて完全に同意だった。あと、ずっと空いていた私の左側の席に人がやってきて、ここは空いているのかな、係の人が席を代わっていいって言ってくれたの、と言うのでどうぞどうぞと伝えたりしました。そんな気の利くサービスがあるのか。いい劇場。
隣のボーイはビーアワゲストで発射されたピンクの紙テープを両手いっぱいに収集してたいそうご満悦でした(私も膝に落ちてきたのをもらった)。


後半も見どころはいっぱいあるんですが、物語の最後、ついに思いが通じ合ったベルと野獣のデュエットが終わって人間に戻れた3人の召使がダッシュで舞台に飛び出してくる場面のルミエール(グレーの地毛でひとつむすび)が冗談抜きで爆イケすぎて「ハァ!!?!??!?」と動転するあまり記憶が丸ごと吹き飛びました。に、日本だと人間に戻っても白のモーツァルト鬘なんですよ、それはそれで全ッッッ然かっこいいんですけど…黒上着白手袋でさ…。シドニールミエールは金属製の燭台から人間に戻ってなお「何やそれ!」っていうきんきらきんの謎上着着てるんですけど(そんな召使いる?)、あの、そんなことが全て些細としか思えないくらいあまりにも爆イケで…ちょっとうまく説明できない…。

オリジナル・ブロードウェイ・キャストのサントラにおけるルミエールは相当コメディリリーフ寄りの声をしている(※個人の感想です)ので、ルミエールが格好いい解釈をされているのは日本だけの可能性あるぞ…と思ってたんですけど、シドニールミエールが容赦なく爆イケだったのでこの流れは世界的なものなのだとわかりたいへんよかったです(←全部憶測で言っています)。あの、顔だけじゃ無くてですね、歌い方とか、ふとした瞬間に見せる表情とかがね、いいんですよ、お父さんと引き離されて泣くベルを見て思わず下を向いちゃったりとか、野獣を優しく励ましたりとかね、するんです…。

あと何がびっくりしたってカーテンコールがない(全員で並んで1回挨拶して即終わる)ところですね。あっさりしてるなあ!観客みんなが合間合間でやんやと拍手してるから、別に最後にまとめてやらなくていいのかもしれない。

すぐには帰りがたくてもう一度BOX OFFICEに寄ってお土産を眺め(ティーセットがとても可愛かったけどどう考えても持って帰れない)、徒歩20分の道のりを呆然と歩いて帰りました。今思えば慣れない土地での夜の呆然一人歩きはあまり褒められたものではなかったかもしれないんですが、大通り沿いだったので特に怖いところはありませんでした。スーパーに寄ってヨーグルトを買った(オーストラリアのヨーグルト、基本的にバニラフレーバーでおいしい)。


ホテルの部屋で初めてパンフレットを開いてみる。写真中心の大判本と文字中心の小ぶりな本の2冊組です。写真がいっぱいあって、場面場面を思い出しやすくてとても嬉しい(後半の記憶が吹っ飛んでいるので)。30ドルだけど買ってよかった。
あわよくば歌声も耳に残したいので、サントラ出してくれないかな…。全員本当に歌がうまかったです。ルミエールの話ばっかりしましたけど、観劇中に鳥肌が立ったのは2回ともベルの歌でした(朝の風景リプライズとチェンジインミー)。いやっ…本当に…本当にすごくて…!!野獣も…!!ほんとに…!!何とかならないですか…。


というわけで、人生で一番、WEB広告に感謝した一日でした。根性出して行ってみてよかったなあ。
最後にその映像(広告バージョンはもっとショートだったけど)を貼っておきますのでご覧ください。何度でも言いますがガストンの仕上がりがやばい。